『手塚治虫文化賞作家が選ぶBest of 手塚‘s Work』

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こんにちはぷくぷくです。
今回のオススメマンガは『手塚治虫文化賞作家が選ぶ Best of 手塚‘s Work』です。手塚治虫といえば言わずと知れたマンガの神様。日本がマンガ大国になった理由を聞かれて「手塚治虫がいたから」と答える人がいるほど後世のマンガ家に影響をあたえました。

では手塚から影響を受けたマンガ家が、手塚の膨大な作品から1話選ぶとすれば何か。この本はそういうコンセプトです。

選者のマンガ家はタイトルの通り手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の受賞作家で構成されています。個性的な現代のマンガ家たちが選ぶ手塚短編はなにか。ご紹介していきます。

基本情報
  • タイトル 『手塚治虫文化賞作家が選ぶBest of 手塚‘s Work』
  • 出版社 朝日新聞出版
  • 発売日 2016/9/20
  • 手塚治虫文化賞作家が手塚短編の中から推薦作品1話を選ぶ
  • 選 者 / 選 定 作 品
    • 萩尾望都(はぎお もと)/ 『ジョーを訪ねた男』
    • 浦沢直樹(うらさわ なおき)/ 『安達が原』
    • 諸星大二郎(もろほし だいじろう)/ 『人間牧場』
    • こうの史代(こうの ふみよ)/ 『ゴッドファーザーの息子』
    • ヤマザキマリ/ 『ガラスの脳』
    • 村上もとか(むらかみ もとか)/ 『マンションOBA』
    • 岩明均(いわあき ひとし)/ 『紙の砦』
    • 今日マチ子(きょう まちこ)/ 『カノン』

手塚治虫の短編を読んだことがない人

最初におすすめしたい人は手塚治虫のマンガを読んだことがない人です。

手塚治虫を全然読んだことのない人も、有名作品くらいしか知らない人も、短編でまず最初に読んでみるならこの『Best of 手塚‘s Work』はオススメしたい一冊です。

膨大な数から厳選の8話

手塚作品が気になっている人なら「色々あるけど最初に何から読めばいいのかな?」と悩んでしまわないでしょうか?
ほかにも「ブラックジャックは読んだことあるけど短編は知らない…。」という人もいるかもしれません。
この『Best of 手塚‘s Work』はそういう人にぴったりの本になっています。

なぜかというと現役マンガ家の厳選した短編8話をまとめてのせてているからです。
各マンガ家がその作品を選んだ理由はいろいろありますが、選ばれた作品には有名なものも多く、「これを読んでみたら手塚短編の魅力が伝わりそう。」と思わせてくれるラインナップ。

手塚作品はとにかく数が多くて、手塚プロダクション公式HPで書かれている限りでは約700タイトル、ページ数にして15万ページとのこと。
そんな膨大な数の中からどれを読もうか、手塚作品をあまり知らない人が選ぶのは難しくて当然です。

でもこの『Best of 手塚‘s Work』なら先にオススメ作品を選んでくれているのだから何も悩まずにすんでしまいます。

そもそも選んでいるのは現役マンガ家です。マンガのプロが選ぶ手塚作品ですから、面白かったり興味深い理由が何かあるわけです。
そんな作品が8話もありますので気に入る作品がきっと見つかると思いますよ。

一話完結のお手軽さ

次のオススメ理由は一話完結型の作品ばかりということ。
いわゆる「読み切り」作品だけの本になっているのがポイント。

手塚作品には一話完結の話がたくさんあります。
短編集などはもちろん長期のシリーズ作品でも『ブラックジャック』のような有名作品も一話完結。
読んだことのある人もいるかもしれませんが、何巻から読んでも楽しめますよね?
1話ごとにその話の最初から結末まで描かれているからです。

読みたくなれば手軽に読めるのがこの一話完結型の良いところです。
話の長さもそこまで長くないですし、初めて短編を読んでみようという人は、例えばタイトルで気になる作品だけ目を通してみるのもアリです。

これは『Best of 手塚‘s Work』だけでなくほかのシリーズ作品なども当てはまりそうですが少し違います。

シリーズ作品だと基本的な情報や舞台の背景などが、シリーズを通して少しずつ解きあかされることがありますよね?
たとえ『ブラックジャック』だと
「過去に何があって傷のある顔になったのか」とか
「ピノコはどうやって登場したのか」なんて疑問はその核心をつく話のときに解るようになっています。

その点短編はそういった状況説明や舞台背景はその一話でちゃんと理解できるように作ってあるので、何も予備知識なし、一巻から順番にということもなく読めます。

(厳密にいえば村上もとか先生の選んだ 『マンションOBA』は続編があるのですが、しっかり一話完結をしているのでこれだけで読んでも大丈夫です。)

ただしシリーズにはシリーズの、短編には短編の魅力がたくさんありますので、ぷくとしてはどちらも一度読んでもらいたいと思っていますが…。

選者に好きなマンガ家がいる人

つぎにおすすめしたいのは選者に好きなマンガ家がいる人です。

選者は活躍中のマンガ家ばかりですのでもちろんファンだという人も多いと思います。
そしてファンならそのマンガ家の作品以外の部分も知りたいと思いませんか?

マンガ家のルーツも見えてくる?

この『Best of 手塚‘s Work』では、各話が始まる前に選者の簡単なプロフィールとその話の選定理由が書かれています。決して詳しく長文で解説されているわけではないのですが、選者ファンはある意味一番の見どころポイントではないでしょうか。

例えば浦沢直樹先生はこう書かれています。

こういうものが描ける漫画描きになりたいと思った気持ちが今も僕をつき動かしている。

『Best of 手塚‘s Work』 24ページ

あの浦沢直樹先生がここまでいうマンガがどんなものか気になりませんか?
全員がこういう自身のマンガのルーツに触れているわけではないのですが、それでも推薦理由というのは気になるポイントです。

現役で活躍中のプロマンガ家が「この作品を推薦する」と言って選んでいるのですからマンガ好きな人にはそれだけで読んでみる価値はあると思います。
ぷくがこの本を手に取ったのもそれが理由でしたから。

というわけで二つ目のオススメしたい人は選者に好きなマンガ家がいる人でした。

手塚ファンには物足りない?

次は逆におすすめできない人?というかこの本では満足できないかもしれない人の話をします。
それは手塚作品をたくさん読んでいる手塚ファンの方です。

読んだ事のある作品が多いかも

では手塚ファンはなぜこの『Best of 手塚‘s Work』で満足できないのかというと、有名な作品が多いというところです。

実はこの『Best of 手塚‘s Work』でぷくが読んだことのない作品は『人間牧場』だけでした。
自分で言うのもなんですがおそらくぷくの手塚好きは初心者ではないけど中級者の下のほう…。

こんなぷくでも読んだことのない作品が1話だけなんです。
これって恐らくファン歴の長い方なら読んでいるという作品ばかりではないでしょうか?

もうひとつ理由をあげるなら1970年代の作品が多い点です。
手塚作品は数多くありますが1970年代は中~後期に入ってくる年代です。

手塚ファンの中には初期の丸い絵の感じが好きな方や、初期SFの歴史的な作品が好きな方は多いと思います。
そういったファンにはやはり物足りない内容にはなるかもしれません。

選者のマンガ家に好きな人がいるならそれでも満足はするかもしれませんが、
そこを含めても手塚作品を読みこんでいるファンはこの本では満足できないのでは?と思うわけです。

とはいえこの『Best of 手塚‘s Work』は、ファンの評価が高い作品も多いので、まだ手塚作品をあまり読んだことのない人には間違いなくオススメの一冊と言っていいでしょう。

次はそれぞれの話について少しだけお話していきたいと思います。

各話ちょこっと感想

選者 萩尾望都(はぎお もと)
『残酷な神が支配する』で第1回手塚治虫文化賞 マンガ優秀賞受賞

推薦作品『ジョーを訪ねた男』1968年

萩尾望都先生が選んだ作品は『ジョーを訪ねた男』です。

ベトナム戦争で戦死した黒人兵のジョーの臓器をもらって生き延びたオハラ隊長は、南部の出身で、人種差別主義者だった。彼は、自分の体内に黒人の臓器がある事を秘密にするために、その事を知っているジョーの家族をハーレムに訪ねるが……。

引用元 手塚治虫公式 ジョーを訪ねた男|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL

あらすじにある通り人種差別がストーリーの根幹にある作品です。手塚作品は作られた時代もあってか、人種差別や戦争が背景にある作品が多いのですが、これはまさにそんな作品になっています。

おそらく現代ではテーマとして扱うにはデリケートすぎてこういった作品は生まれにくいと思います。そういった時代も一緒に感じ取れる作品になっています。

選者 浦沢直樹(うらさわ なおき)
『MONSTER』で第3回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞

『PLUTO(プルートウ)』(原作/手塚治虫)で第9回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞

推薦作品『安達が原』 1971年

浦沢直樹先生が選んだ作品は『安達が原』です。

四級調査官ユーケイは宇宙最高の殺し屋。地球から遠い荒涼の星を訪れ「魔女の館」にひとり住む老婆に銃を向けた。だが彼女との対決は、ユーケイの意外な過去をあぶり出す…。食人鬼女伝説『安達が原』SFバージョン。

引用元 手塚治虫公式 安達が原|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL

ぷくが思う手塚短編の最高傑作がこの『安達が原』です。
オリジナルの安達が原伝説にSF要素を含めて、さらに人間の醜さや悲しさをストーリーに練りこんでいます。
苦しくて悲しいラストをぜひ堪能してほしいです。

選者 諸星大二郎(もろほし だいじろう)
『西遊妖猿伝』で第4回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞

推薦作品『人間牧場』 1961年

諸星大二郎先生が選んだ作品は『人間牧場』です。

小学生も、役人も、歌手も、毎日同じ生活を繰り返すすべてがマンネリの町。その住民数人を呼び出したロケットのパイロットは、意外な事実を告げる。そこが地球上ではなく、異星に作られた「人間牧場」であると言う。

引用元 手塚治虫公式 人間牧場|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL

『Best of 手塚‘s Work』で初めて読んだ作品でした。
初期の全体的に丸い感じの絵柄がかわいい雰囲気です。
ページ数はそこまで多くない作品なのですが、何度も驚きの展開をします。
テンポがよく楽しませてくれる作品でしたが最後の皮肉はチクッとくるかも。

選者 こうの史代(こうの ふみよ)
『夕凪の街 桜の国』で第9回手塚治虫文化賞 新生賞受賞

推薦作品『ゴッドファーザーの息子』 1973年

こうの史代先生が選んだ作品は『ゴッドファーザーの息子』です。

(中略)
腕力で皆の上に君臨していたゴッドファーザーの息子ですが、マンガが大好き。「ペンは剣よりも強し」などと言いますが、まさにその至言どおり、ペンの力は偉大なもので、乱暴者のバンカラさえも、手塚少年には一目置くようになります。

引用元 手塚治虫公式 ゴッドファーザーの息子|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL

あとに出てくる『紙の砦』もそうですが手塚本人かと思われるキャラクターが主人公の短編です。
フィクションだと思いますが、実体験もいろいろと練りこまれていそう。

手塚作品は戦時中が舞台の作品も多いのですが、これもそのひとつ。
だからといってただ暗い雰囲気だけの作品ではなく、むしろ全体としてはコミカルで楽しい作品になっているのが印象的です。

選者 ヤマザキマリ
『テルマエ・ロマエ』で第14回手塚治虫文化賞 短編賞受賞

推薦作品『ガラスの脳』 1971年

ヤマザキマリ先生が選んだ作品は『ガラスの脳』です。

列車事故で亡くなった母が産み落とした由美は、昏睡状態のままで発育し続けた。十七歳の時に、幼い頃から彼女を見守ってきた少年雄一のキスによって覚醒。わずか五日間で十七年分もの信じがたい成長を遂げるのだが…。

引用元 手塚治虫公式 ガラスの脳|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL

あらすじだけを読むと少しロマンティックな感じがしますが、
実際は決してロマンティックなだけの作品ではなく、特殊な状況に苦悩する思春期の少年少女を描いています。

実際には絶対ありえない状況なんだけど、彼らの悩みはわたしたちでも知っているような、すごく普通の恋愛感情だったりするところに親近感をおぼえます。

選者 村上もとか(むらかみ もとか)
『JIN-仁-』で第15回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞

推薦作品『マンションOBA』 1972年

村上もとか先生が選んだ作品は『マンションOBA』です。

新開地住宅建設のためムサシ野を追われたオバケたちが、人間の姿でマンションに住み着いた。目的は人間たちへの復讐。その手段として人間の少年タカシを不良、悪人に育て上げようとしたことから、騒動が持ち上がる。

引用元 手塚治虫公式 マンションOBA|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL

妖怪たちが住みかを奪った人間へ復讐をするお話なのですが、その計画もなんだか安直だったり、復讐をさせるために育てたタカシに愛着をもってしまったりと、人間よりよっぽど人間的ですごくかわいいのです。
反対に、人間の家出少年タカシが非行にはしっていく様子のほうがよっぽど不安な気持ちになるかも。

また、少し上でも書きましたがこの作品は連作短編です。
しかし一話完結になっているので問題なく読めると思いますので大丈夫。
むしろ続きが気になってほかの短編集がほしくなるかも。
『春らんまんの花の色』『耳ガラス』の2作品が続きます。

選者 岩明均(いわあき ひとし)
『ヒストリエ』で第16回手塚治虫文化賞 マンガ大賞受賞

推薦作品『紙の砦』 1974年

岩明均先生が選んだ作品は『紙の砦』です。

第2次世界大戦末の日本で、漫画に打ち込む中学生だった手塚治虫自身の姿を描いた、自伝的作品です。

引用元 手塚治虫公式 紙の砦|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL

『ゴッドファーザーの息子』と同じように手塚本人がモデルになっているであろう作品です。
戦時中が舞台になっているところも同じなのです。
しかしこの作品は『ゴッドファーザーの息子』とは全く雰囲気が違います。

戦争の暗い部分が描かれており、これが手塚の実体験でないことを願うような作品です。
けれどそんな中でも手塚のマンガに対する情熱を知ることのできるエピソードが入っていて、熱い気持ちがこみ上げてくる作品になっています。

選者 今日マチ子(きょう まちこ)
『みつあみの神様』で第18回手塚治虫文化賞 新生賞受賞

推薦作品『カノン』 1974年

今日マチ子先生が選んだ作品は『カノン』です。

東京で小学校の教頭をしている加納が出席する同窓会場の母校は、五年前に廃校となり建物は朽ちていた。それでも同窓会は開かれ、みな小学生当時と変わらぬ姿で現れる。加納ことカノン以外はあの空襲以前のままで…。

引用元 手塚治虫公式 カノン|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL

こちらもテーマとしては戦争になるのでしょうか。
戦争の悲惨さを描いた部分は本当に苦しい気持ちになるのですが決してそれだけで終わらない、ノスタルジックな雰囲気を混ぜて少し優しい気持ちで読み終われます。

話の後半にでてくる、大人になることができなかった友人たちからの言葉は絶対に忘れてはならない手塚からのメッセージだとぷくは思います。
戦争体験者が描くマンガはここまで言葉に説得力があるのかと思わずにはいられません。

まとめ

いかがだったでしょうか。
最後にもう一度まとめておきます。

この『手塚治虫文化賞作家が選ぶ Best of 手塚‘s Work』は

  • 手塚治虫のマンガを読んだことがない人にオススメ
  • 選者に好きなマンガ家がいる人にオススメ
  • 手塚ファンには物足りないかもしれない

という感じになっております。
いろいろ話をしましたが間違いなく入門編としてはオススメできる一冊になっていますのでこれを機会にぜひ一度手塚作品を読んでみてほしいと思います。

ではではぷくぷくでした。