浦沢直樹『PLUTO』と手塚治虫『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』

今回は浦沢直樹先生の『PLUTO』と手塚治虫先生『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』をご紹介します。

『PLUTO』は手塚治虫先生の代表作『鉄腕アトム』の中でも屈指の人気を誇る「地上最大のロボット」という回を、浦沢直樹先生がリメイクした作品として、とても話題になりました。

『鉄腕アトム』は手塚作品の中でもどちらかといえば子供向けに作られた作品なのですが、
浦沢先生はこの子供向け作品に細かな設定・肉付けをしていき、
完全な大人向け作品、極上のミステリマンガに仕上げています。

『PULUTO』基本情報
  • 出版社 小学館
  • 作者 浦沢直樹、監修 手塚眞
  • 原作『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』
  • 全8巻
  • 電子書籍はまだ無いようです…。
オススメポイント
  • 『PULUTO』は極上のミステリマンガ
  • 原作『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』がそもそも面白い
  • 両作品の背景にあるテーマが深い

極上のミステリマンガ

浦沢作品といえばその練りこまれたストーリーが魅力ですよね。
今回紹介する『PULUTO』はリメイク作品なのですが、
原作にはないオリジナル要素や浦沢先生の絵の雰囲気もあいまって、
極上のミステリ作品へと変身しています。

ネタバレしないようにその魅力を少し紹介していきましょう。

練りこまれたストーリー

『PULUTO』のすごいところは設定の細かさです。
原作では子供向けの話ということもあってそこまで細かく描写されていないような部分までしっかりと設定が作りこまれています。
それも違和感のないリアルな内容で、
まるでドラマでも見ているような感じになる設定なのです。

たとえばロボット法(作中にでてくるロボットの権利などを定めた法律)擁護団体と反ロボット主義者の対立や、
第39次中央アジア紛争という戦争にいたる状況からその戦争の細部など、
「こういう状況ならそういうことになるかも…。」
と思わせてくれる説得力のある設定です。

この細かい設定が肉付けされたリアルな説得力によって『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』から
『PULUTO』へ変身をします。
子供向けのロボットバトルものから、
まるでミステリのドラマや映画のような全然違うタイプの雰囲気にジャンルが全く違う作品へ変身するのです。

さらに原作を踏襲した設定だけではなくあえて原作とは違うオリジナルの要素も入っています。

『PULUTO』が原作と一番大きく違うのは主人公がアトムではなくゲジヒトという別のロボットになっていることです。
このゲジヒトは優秀なユーロポールの特別捜査官ロボットで、
その職業柄今回の事件を調べていくいわゆるミステリの探偵役を務めます。
捜査を進めていくうちに新たな謎・新たな事件が次々に起きるという展開になっていきます。

この流れはまさミステリ的展開ですよね。
このミステリな雰囲気は浦沢作品との相性も抜群に良いようで、
原作の『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』を読んだことのない人でもこの雰囲気は楽しめると思いますし、
原作を知っている人ならその違いを探してみても楽しめる作品になっているのではないでしょうか。

さらにいうなら『PULUTO』はただ
「犯人はだれだ?」といった簡単な内容ではなく、
キャラクターごとに過去のストーリーや葛藤がありそれぞれに魅力がつまっています。
そこに政治的背景なども複雑に絡み合って、
ヒューマンドラマの部分でも濃厚で読みごたえのある内容になっています。

原作『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』がそもそも面白い

それでは『PULUTO』の原作となった『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』とはどんな作品なのでしょうか?

地上最大のロボットってどんな作品?

『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』のストーリーを簡単に説明すると、
サルタンという王様が世界一強いロボットを科学者に作らせます。
そして作られたのがプルートウというロボットです

そしてプルートウに最強であることを証明するために、
世界中の最高性能をもつ7体のロボットを倒すように命令をします。
その7体の中にアトムも入っていて戦うことになっていくわけですが…
という感じ。

読み進めていくうちにプルートウ自身がけして暴力的な性格ではなく、
騎士道精神や優しい心もあるロボットであることがわかってきます。
しかしロボットであるがゆえに主人の命令は絶対です。
何がなんでも7体のロボットと戦い勝たないといけないという使命を背負っているのです。

そして最後の戦いからラストへの展開は間違いなくマンガ史に残る傑作で、
争いの醜さを痛烈に皮肉っている内容になっています。

子供向けの作品によくある悪いやつをやっつけておしまいの勧善懲悪の作品ではなく、
読み手に背景にあるテーマを意識させ問題提起をしてくれる深い内容の作品となっています。

手塚作品にはおおよそですが大人向け、子供向けといった読者設定がされています。
『鉄腕アトム』は後者の子供向け作品の代表といってもいいでしょう。

なので全体の流れとしてはわりとシンプルだと思うのですが、
シンプルだから単純でつまらないのかといえば全然そんなことはなく、
むしろその展開に手塚作品のすごさがつまっています。

つぎつぎとロボットを襲うプルートウ。
襲われるロボットも個性的で魅力的なキャラになっています。
そしてその事件に巻き込まれていく主人公のアトム。
ハラハラしてどんどん話に引き込まれてしまうすごい作品になっています。
『鉄腕アトム』の中でもたいへん人気のある作品です。

本当にオススメの作品ですので、
気になる人はぜひ一度読んでみてください。
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両作品の背景にあるテーマが深い

『PULUTO』を読んでいくと当たり前ですが浦沢先生が手塚先生の原作をとても大切にしていることが読み取れます。

特にそれを思うのが原作のテーマを色濃く受け継いでところです。
ぷくぷくが思う『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』のテーマとは、
争うことの醜さや虚しさだと思います。

この何とも子供に伝えるには難しいテーマを、
手塚先生は『鉄腕アトム』という子供向けマンガの世界観をとおして考えさせてくれます。
原作最後の一コマはいつの時代だろうが常に考えていかないといけない大切な問題提起となっています。

手塚治虫先生は戦争を体験した世代です。
小学生で日中戦争、中学生のころには太平洋戦争と大変な子供時代をすごしています。

手塚作品の中にはこの戦争体験をもとにした作品も多く、
ぷくぷくは読んでいて苦しくなるようなものもありました。

そんな手塚先生だからこそこのテーマが重く、
しかし大切なメッセージになっていると思うのです。

原作のファンとして『PULUTO』を読んだときに一番嬉しかったところはまさにそのテーマを受け継いでくれているところです。
しかも今度は大人向けのミステリマンガという独特の世界観で。

絵の雰囲気やリアルな世界観で「争い」の表現がきつく感じるところもあるのですが、
根っこの部分で伝えようとするテーマはやはり原作と同じだと思えました。
そこをしっかりと描こうとしたところに浦沢先生の原作リスペクトが見えたような気がしたんです。

どちらかの作品を読んでみることがあれば、
ぜひそのテーマも意識して読んでみてください。

まとめ

いかがだったでしょうか。
『PULUTO』は原作以上に肉厚な設定にして、
極上のミステリ作品に、
原作の『鉄腕アトム~地上最大のロボット~』はそのハラハラする展開にどんどん引き込まれる、
手塚作品の中でも屈指の人気を誇る作品になっています。

そして両作品の根っこにあるのは争うことの醜さ、虚しさという手塚先生が生涯大切にしていたテーマです。

まだ読んだ事のない人がこの記事で作品に興味をもってくれればとてもうれしいです。
どちらも面白くてオススメなのでぜひ一度読んでみて下さい。

ぷくぷくでした。

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